ワンスアラウンドの『現場マガジン』 2023年3月29日号


皆様いつもお読みいただきましてありがとうございます。
ワンスアラウンド顧問の馬場です。
今週は、『マーケットレポート』の第33弾をお届けします。
コロナ禍でのマーケットの変化と、商業施設を中心とする現場の変化をタイムリーに捉えながら、 自らも現場を持つ弊社ならではの視点で、これからの時代へのヒントをお届けしたいと思います。

【Market Report vol.33】

百貨店の再生・復活に向けて
~ショッピングセンター(SC)化の現在地~

百貨店は、地方店を中心に首都圏でも閉店が続いており、 山形・徳島などの「百貨店ゼロ県」も生まれているなか、 今後は、ターゲットを見極めたうえで、アパレルに拘らず、地域の人に寄り添い、 今までの様なフロア切りや用途切りのコンセプトではない 「新たな百貨店」の提案が求められると前回ご報告しました。


1970年代には既にあったSC化と専門店導入

近年は「消化仕入契約」から「定期借家契約」への切り替えによるSC化の転換事例が多くなっていますが、 SCへの転換や専門店導入は最近の取り組みではなく、1970年代にはすでに始まっていました。
前職の会社(以下:鈴屋)が出店した事例を報告します。


(1)百貨店からSC化された商業施設

■千葉市 「奈良屋デパート」
   →1972年、「千葉セントラルプラザ」に転換
   →2001年 営業終了
■鹿児島市 「大見高島屋」
   →1979年、「高島屋プラザ」に転換、 のちに「タカプラ」に呼称変更
   →2022年 地域一体開発で複合施設「センテラス天文館」として開業
■川崎市 「岡田屋百貨店」
   →1980年、「川崎岡田屋モアーズ」に転換
■藤沢市 「十字屋」
   →1986年、「藤沢コスタ」に転換
   →1996年 「藤沢OPA」として全面改装

(2)東京発の専門店として百貨店に出店

鈴屋は上野で創業後、1960年代にファッションの発信地である銀座で「ファッション専門店」を確立し、 新宿、池袋、渋谷の各ターミナルに出店。
その後、1969年に初めて箱根を越えて、大阪梅田に出店しました。
当時、東京流の店舗や商品が通用するだろうか?との危惧がありましたが、 東京流を押し通した結果、東京と大阪という日本の2大経済圏の支持を受けたことが 全国展開の起点となり、1970年代に入ると全国主要都市への店舗展開が本格スタートしました。

そんな中、最初の百貨店からの出店依頼は、1973年(昭和48年)、 熊本市の「鶴屋百貨店」の増床改装時でした。
「鶴屋百貨店」は、婦人・紳士・靴・呉服等の各業種一店舗づつ、 東京の専門店の導入を計画し、「百貨店の顔として東京ファッションを発信して欲しい」との依頼で、 1階中央区画への出店でした。

その後1970年代後半には、地方都市の百貨店から、 「街の環境を明るくする」、「人の流れを惹き込む」と評価をいただき、 以下の百貨店では1階入口や中央区画に出店しました。
■北海道 「丸井今井百貨店 (旭川店・函館店)」 「棒二森屋(函館)」
■長野県 松本市 「井上百貨店」
■三重県 四日市市 「近鉄百貨店」
■山梨県 甲府市 「岡島百貨店」

百貨店・量販店のSC化で経験したこと。学んだこと。

SC化において、テナント側と企画・実施側、双方の立場を経験をしましたが、 SC化への業態転換の中では、2つの大きな課題(現在も同じですが)が浮き彫りになりました。
2つの事例をご紹介しますが、課題は大きく以下の2つではないでしょうか?
   (1)独自なテナント運営力(テナントとのコミュケーション力
   (2)転換前とは違ったSC価値(利益構造)づくり

■テナントとしての経験  「長崎屋仙台店」

長崎屋は衣料がメインの量販店でしたが、 小型店舗のファッションビルへの業態転換を計画。 1号店は1963年(昭和38年)開業の仙台一番町店で、 20年後の1983年(昭和58年)に 「仙台シャル」として開業しました。
鈴屋は、「シャル化計画」のご相談とともに、「仙台シャル1階」へ出店要請を受け、 その後の都心小型店舗を転換する「シャル化計画」に協力しました。
転換後、「仙台シャル」の館長とお会いするたびに、 テナントとの「関わり方が難しい」「言葉が通じない」「理解してもらえない」 等のお悩み相談を受けました。

当たり前ですが、ファッションビル化(SC化)したということは、 「小売り」から「テナントビジネス」へ切り替えたということであり、 「長崎屋店長からシャル館長へ」と立ち位置が変わったわけですから、 店長時代に通じていた言葉が、それぞれの理念、考え方や仕事の進め方が違う テナント企業の集合体であるシャルの館長では違っていたのです。
先ずはテナントとコミュニケーションを取りながら、相手を理解し、 具体的な目標を共有して実践することが重要ですとお話ししたことを記憶しています。

ただ、「シャル化計画」は、首都圏でも展開されましたが、 長崎屋再建の切り札とはならず、長崎屋は 2000年に会社更生法を申請しました。

■SC化企画・実施側としての経験  「丸広百貨店アトレ店」

丸広百貨店は、 川越の商店街の中心に「本店」、駅前に「アトレ店」の 2館体制で運用されていましたが、「消化仕入れ契約」から「定期借家契約」への 切り替えによる利益構造改革を推進し、「アトレ店」を 2012年から、上層階と地下食料品の2回に分けて「SC化」しました。

SC化は、不動産業としてテナントから賃借料という安定した収入が入りますが、 利益構造改革の肝は、人員削減という犠牲をはかり、 一番ウェイトが大きい経費である人件費削減によって、 経費構造を変革してSC運営事業としての収支バランスを取るということであり、 その理解を得ることで実行できました。

他社事例ですが、
2020年6月に、全店をテナント営業に切り替えた 「西武東戸塚S.C.」の、当時の館長は、 152の専門店と定期借家契約を締結した一方、120人いた従業員を18人に削減し、 人件費コストを大きく下げた経費構造変革について、 「百貨店として生き残っていくために、もがき苦しんで出した結論が 全館テナント型だった」と語っておられます。



現在も、多くのSC化への転換が計画されていますが、コロナ禍後に定着しつつある 「新しい生活様式」に対応する中、「新たなSCコンセプトで、 リアルな場としての体験価値や来館価値を向上させる」取り組みが求められています。


今秋、開業及び改装予定のSC化施設

そして今、SC化への取り組みでは、高島屋グループの計画に注目しています。

「高島屋京都店」は、増床区画を専門店ゾーンとし、百貨店と専門店を一体化して、 商業施設の屋号も「京都高島屋S.C.」に変更。
「立川高島屋S.C.」は既にSC化されていましたが、 残っていた百貨店区画を1月に営業終了。 秋には、その区画を専門店ゾーンへ転換し、館全体をSC化します。

百貨店と専門店からなる「京都高島屋S.C.」の専門店ゾーンに、 今回、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下:CCC)、 高島屋、東神開発の3社による合弁会社 「TTC LIFESTYLE社」 による「京都蔦屋書店」が出店します。

専門店ゾーンのコンセプトは、
出“あう”場所、出“あい”に行く場所
      「会・逢・遇」
ここは京都の交差点 四条河原町


「ライフスタイルや文化の発信・提案」3社共通の強みですが、 今回の出店は、この3月27日、文化庁が移転した京都の地に、 「ライフスタイルコンテンツ」として、 「アートを中心としたライフスタイルを提案する店舗」となります。

今後の「新しいSCコンテンツ」としても注目されると思います。

変わる!!百貨店のSC化の推進役

百貨店は、自主編集の売場を手放しながら、テナントの導入にあたっていますが、 それをサポートしているのが、「東神開発」「パルコ」などのSC運営会社です。 SC運営会社は、テナント開発事業において大きな役割を果たしており、 ここに来て一段とクローズアップされています。

「東神開発」は、 二子玉川の「玉川高島屋S・C」をはじめ、 国内外の商業施設を開発、運営していますが、高島屋グループは、今後は 「東神開発」が「グループの軸」になると表明しています。

また、「パルコ」は、当初は西武グループとして 「池袋パルコ」を開業しましたが、 百貨店のグループ再編の中で、「J.フロントリテイリング」の グループ企業(子会社)としてSC事業を担い、 百貨店事業の「大丸松坂屋」を支えていましたが、 3月からは、「J.フロント都市開発(株)」に承継しています。

パルコの牧山前社長は、大丸松坂屋に無いもの、足りないものとして、 「アートやポップカルチャーを含めたエンターテインメント要素を取り入れ、 そのコアファン(若者)を獲得することが、大丸松坂屋の期待に応えることである」 と語っています。

両社は、奇しくも約半世紀前の1969年に、当時はまだ都心の郊外だった二子玉川に、 日本最初のショッピングセンターと言われる「玉川高島屋S・C」と、 池袋駅東口の丸物百貨店の跡地に「池袋パルコ」を開業させており、 「商業施設ディベロッパーの先駆者」としての不思議な縁を感じずにはいられません。



さいごに ―SC化が進む中での百貨店の役割と方向―

百貨店のSC化が進行する中、お客様から見ると、どんな契約形態で運営されているのかは特に問題ではなく、 百貨店とSCで異なるのは、地下の食料品、1階のコスメ、ラグジュアリーブランドくらいで、 殆ど変わらないと思います。

コロナ禍でEC売上が伸長している今、百貨店もSCも、 「リアルな現場としての価値を、より向上させる」ことが必要不可欠になりました。
具体的には、「魅力ある店舗づくり」「お客様を惹きつける(集まる)コンテンツ」 が求められており、その実現のためには、地域の人々に寄り添いながら、新たな視点が求められます。

前述した2社には、SCの新しいコンテンツとして「アートやポップなカルチャー」を志向している という共通点があります。
これは、百貨店のSC化の新たな方向性のヒントになるのではないでしょうか?


最後までお読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。

ワンスアラウンド株式会社
顧問 馬場 英喜


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