ワンスアラウンドの『現場マガジン』 2021年10月13日号


皆様いつもお読みいただきましてありがとうございます。
ワンスアラウンドが毎週お届けしている『現場マガジン』は、 文字通り我々が運営する《現場》発のホットな情報をお届けするメールマガジンです。
今週は、『マーケットレポート』の第16弾をお届けします。
コロナ禍でのマーケットの変化と、商業施設を中心とする現場の変化をタイムリーに捉えながら、 自らも現場を持つ弊社ならではの視点で、これからの時代へのヒントをお届けしたいと思います。

【Market Report vol.16】


ショッピングセンター(SC)の未来を考える ―第7回―

こんにちは!ワンスアラウンド顧問の馬場です。
前回は、ここ30年間、売上が減少し続けている百貨店が継続し続けてきた背景にある強みを掘り下げてみましたが、 一言でいうと、「百貨店は変化に対応できる小売業」であり、そしてそれを支える「お客様の信頼」と 「一等地という立地(不動産価値の高さ)」がありました。
一時代を築いてきた百貨店は様変わりしましたが、SCも2018年をピークに売上が減少し始めたところにコロナ禍が襲い、 これからはより厳しさが予測されます。
今回は、SCの未来を見据えて、今後の新たな方向性を探ってみます。

今後のSCモデルの方向性の新しい切り口の芽

前回、今後のSCモデルの方向性は「多様化」であり、 これからは、DEVの「タイプ別の分化と立地別の分化」が進んでいくのではないかと述べましたが、 今回は、DEVのタイプとして今後の新しい切り口の芽として参考になるのではないか?と紹介した企業の事例を 少し掘り下げたいと思います。

(1)本を売るのではなく、ライフスタイルを売る
    〜(株)CCC (カルチュア・コンビニエンス・クラブ)〜

TSUTAYAは、38年前にレンタルのフランチャイズビジネスからスタートしましたが、 現在のCCCは、「カルチュア・インフラをつくる企画会社」をミッションとして掲げ、 Tポイントカード戦略を実行しながら、プラットフォーム事業、データベースマーケティング事業、 公共サービスや地域共生に関わる事業などを通じて 「新しいライフスタイル提案」を行っています。

2011年の代官山のT−SITEを皮切りに、二子玉川の蔦屋家電、 そして地域型のT−SITEを展開していますが、「本を売るのではない。ライフスタイルを売る」という オーナーの言葉が示すように、それぞれの施設が書店を中心にライフスタイル型のMD構成と環境空間づくりを通して、 館全体としての集客力と魅力出しを図っています。

書店は本を読むという時間消費型店舗ですが、そこに関連するカフェ(スターバックスコーヒー)や雑貨、 アート、小イベントなどを導入して、滞在時間の長さだけではなく、時間そのものの質を上げる ことを志向しています。

また、行政と組みながら、佐賀県の武雄市が第1号店でしたが、「本」を切り口に地方の図書館を運営するなど、 地方創生にも取り組んでいます。


■二子玉川・蔦屋家電開業に伴う  東急二子玉川駅乗降客数の変化

 (一日当り) (2010年対比)
2010年 ライズ1期開業前104,613人
2012年 ライズ1期開業後123,911人118%
2016年 ライズ2期開業後160,588人153%

コロナ禍前のデータですが、蔦屋家電を含むライズ第2期開業は、
テラスマーケット、シネマコンプレックス開業や楽天オフィス移転を伴い
一日当り:37,000人増、年間:1,350万人の乗降客増となっています。

SCにとっての一番の課題は集客力ですが、ライズの2期開業後は、
 二子玉川駅の乗降客が劇的に変わっています。
蔦屋家電の集客貢献度
 も大きいと思われます。

(2)地域に巻き込まれながら感じ良い暮らしと社会の実現を目指す
     〜(株)良品計画  無印良品〜

1980年、西友のPB商品として40品目でスタートした「無印良品」は、今では 7,000品目を扱っており、店舗は31の国・地域へと広がりました。 良品計画は1989年設立ですが、(HPによると) 本年9月からを「第二創業」と位置づけ、企業理念を次のように再定義しています。
  • 「人と自然とモノの望ましい関係と心豊かな人間社会」を考えた、商品、サービス、 店舗、活動を通じて、「感じ良い暮らしと社会の実現」に貢献する。
  • その実現に向けて、各自治体や地域の方々に「巻き込まれる」ことで、 地域課題の解決や町づくりへの貢献を目指す。
  • 具体的には、「文化・アート」活動をひとつの切り口として、地域の魅力を再確認するきっかけを作り、 その地域に暮らす生活者の生き生きとした良質な生活の実現に繋げたい。
こうした理念をもとに今後を見据えた事例の一つが、昨年7月に出店した「無印良品・直江津店」だと思います。
新潟県直江津市の既存施設「直江津ショッピングセンター」内の量販店退店跡の2階において、 約5,000uの大型店舗とし、店内には「MUJI BOOKS」と「スターバックス」の初取組みによる 「BOOKS&CAFE」、そして食の多彩さ、楽しさを伝えるために「カルディコーヒー」「久世福商店」を テナントとして導入しています。

併せて、大都市圏では、大阪・北花田、東京・有明、東京・銀座。神奈川・港南台等で、大型店を次々に展開しています。

(3)アウトドアのコンセプトに絞り込んだコンセプト型施設の提案
     〜モリパーク アウトドアヴィレッジ&スノーピーク〜

青梅線昭島駅前に昭和飛行機都市開発が運営する「モリパーク アウトドアヴィレッジ」があります。 量販店を核にした施設「モリタウン」に加えて2015年に開業しました。 施設規模は5,000uと小型で店舗数は16店舗ほどですが、 「アウトドア」にコンセプトを絞り込んだ施設で、 「ザ・ノース・フェイス」「モンベル」「コールマン」等のテナント構成のなかで、 中心的役割を果たしているのが「スノーピーク」です。
スノーピークは、新潟県三条市で金物問屋からスタートして、アウトドアメーカーとして事業を拡大し、 現在は、人生を構成する「衣・食・住・働・遊」の領域で「人生に野遊びを!」 のコンセプトを掲げてアウトドアライフスタイルの体験価値を提供しています。
直近では、地方創生事業としてアウトドアの知見を活かした価値の創出を目指して、 高知県や長野県白馬村で体験開発拠点開発に取り組んでいます。

見えてきたこと、学んだこと

上記の各社は、創業者の思いや個性を盛り込んだ経営理念の体現を目指して発展してきましたが、 共通していることは、自社の経営理念(ミッション)を大切にしながら、その経営理念の実現の為に、 足りない部分は外部とコラボレーションしながら実現させている事です。
■CCC スターバックスを軸にサードプレイスとしての役割を充実

スターバックスとのフランチャイズ契約(国内でも数社と聞いています)での取り組みが大きな役割を果たし、 空間価値を生み出しました。
スターバックスは、家庭、職場に次ぐ第3の場=「サードプレイス」を店舗理念としていますが、 コロナ禍を受けてからのCCCは、コワーキングやコミュニティの場を更に付加しており、 その役割が一段とクローズアップされています。

特に、都心と郊外の中間立地(住宅地も近接していてファミリー層や高齢者もいる)では、 多様な人々が集まれる第3の場所があるSCが求められるのではないでしょうか?


■無印良品 本年9月から第2創業期と位置づけ、企業理念を再構築

店舗を起点にしながら、衣・食・住における基本商品の開発強化に取り組んでいますが、 コンセプトに合致した商品のフィールドを拡大し、個店強化策として地域ニーズに寄り添う店作りを加速させています。
前述の企業理念の中で、その実現に向けては地域の方々を「巻き込む」ではなく、 「巻き込まれる」と記されており、まさに企業姿勢が表れています。

今後は、「感じ良い暮らしと社会の実現」という新たな企業理念に沿って、 行政や周辺企業と連携しながらの地域の社会・経済の活性化が本格化するのではないでしょうか?


■モリパークアウトドアビレッジ 従業員の働き方改革にもチャレンジ

モリパーク アウトドアヴィレッジは施設のコンセプトが明確ですが、 この施設は開業時の2015年に、従業員の働き方(店休日と営業時間)に一石を投じて、 毎週水曜日を店休日としました
導入にあたって、出店者からは「えっ!」という声もあったそうですが、事業責任者は強い意思でチャレンジしました。
アウトドア商品という特性があるのかも知れませんが、 店休日を活用しての奥多摩方面へのハイキング等のイベントを企画すると参加者も多く、 スタッフも直接お客様の声を聞ける場となったそうです。

施設規模が小さくても、同じコンセプトのテナント群が集積した施設は、 SCが抱える課題解決のスピードが早いのではないでしょうか?


<今回のまとめ>

■社会構造と生活の変化の中で百貨店、SCに求められるもの

今回見てきた事例は、施設規模は大きくありませんが、これまでテナントとして出店していた企業が、 自らの経営理念を体現しながら、新たな施設を運営している事例であり、DEVのタイプの一つのモデルとしての新たな提案です。

こうしたモデルの実現には、会社の経営理念(ミッション)のもと、明確な事業コンセプトをもって、 そのこだわりを日々の経営の中に浸透させ続けることが重要だと思います。

また、立地について、地方都市は大きな悩みを抱えていますが、無印良品が目指しているように 「感じ良い暮らしと社会の実現」に向けて、各自治体や地域の方々に「巻き込まれる」ことを是とする姿勢が重要です。

今後のSCに求められるのは、明確な事業コンセプトをもって、 地域課題の解決や町づくりに情熱をもって取り組んでいけるかどうかが最も重要であり、 そんな拘りと情熱を持っていれば、SCは、商業施設から生活施設へ、 さらに社会施設へとシフトしていくのではないでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。

ワンスアラウンド株式会社
顧問 馬場 英喜


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